'The moon sets and birds cry / 月は落ち、鳥が鳴いて' について
The moon sets and birds cry / 月は落ち、鳥が鳴いて
ピアノとエレクトロニクス音楽による新アルバム
2021年5月7日より、Bandcampにてデジタル・ダウンロード販売開始
本アルバム「The moon sets and birds cry / 月は落ち、鳥が鳴いて」は、ピアノと電子楽器のための曲と即興演奏を含み、作曲家/音楽家であるアンナ・マレーによって編成されている。
2020年から2021年にかけて制作・録音された本作は、同期間マレーが在籍した東京藝術大学での能楽を学んだ経験とその影響を色濃く反映した楽曲群である。新型コロナウイルスの大流行に伴う緊急事態の各規制が常に変動する不安定な状況。そのさなかにリハーサルスペースで録音された音群は、内面性と親近感、内省を聴者にもたらす。
トラックリスト:
鏡板1(ライブ・インプロビゼーション)
東遊(あずまあそび)バージョン1
空には鳥が、地には木が
三井寺にて
東遊(あずまあそび)バージョン2
鏡板2(ライブ・インプロビゼーション)
杜若 (with ミシェル・オロールク)
作曲・演奏・録音:アンナ・マレー
トラック7 ヴォーカル:ミッシェル・オロールク
録音:サウンドスタジオノア秋葉原 にて
マスタリング:ショーン・マカーレイン
ジャケット写真:ダリル・フィーヘリー
Bandcamp: www.annamurraymusic.bandcamp.com
本作について
「The moon sets and birds cry / 月は落ち、鳥が鳴いて」とは、能の「道成寺」からの引用句であり、月明かりに照らされて期待感に満ちた寺での情景を描き出す。本アルバムでは、至る所に能の音やアイデアが、直接的もしくは間接的にも反映されており、録音方法もまた、この要素を加味するに貢献している。収録曲の多くでは、屋根を閉じたピアノの内側にマイクを設置する録音法の採用により、ピアノの機械的特性から生まれる音が増幅されている。つまり、共鳴音や弦の震える金属音、ピアノ木枠の軋む音、これらが例えば演者の足音のように、能舞台を想起させる要素としてテクスチャーに織り込まれているのだ。あたかも夢幻能かのごとく、本作でも現実と幻想の世界が常に変化し曖昧となる。
本アルバムは、ピアノとライブ・プロセシング* による2編の即興曲「鏡板1&2」が序幕と終幕を飾る。能舞台のバックパネルである「鏡板」にちなんだ命名だ。能の鏡板に描かれている松の木はまた、奈良は春日大社の「影向の松」を「反射」した姿である。もう一方の組曲「東遊(バージョン1&2)」は、最も有名な能の演目のひとつ「羽衣」の一節の旋律構造に基づいており、作曲者マレーが研究期間中に開発した「能と五線譜のハイブリッド楽譜」を用いて制作された。1つのバージョンでは、謡の宝生流に近いピッチクラスセットを使用、もう一方では、異なる色の2つの反射のように、同じ構造での新しいピッチクラスセットが使用されている。
*ライブ・プロセシング - 演奏中にリアルタイムで電子的な処理や効果を加える技法。
本作の中盤を構成するのは、ピアノと能管のための作品である。本作タイトルは引用・短略化された一文だ。また、この引用句は能の演目『楊貴妃』に」含まれる、中国の古いラブストーリーである「ベガとアルタイル」にちなんだ一文である。
「我々は、空中ではいつもタンデム飛行する一対の鳥となり、地上ではいつも枝が触れ合う一対の木となる。」
そこに続くのが、以前に「三井寺にて/ At Mii-Dera](2017年にキルコス・アンサンブルがマーラ・キャロルに委嘱したもの)でもフィーチャーされた旧2作品のうちの1つであり、劇中の「三井寺」に登場する月や雲、鳥などのイメージをもとにしたグラフィックスコアが使用されている。
アルバムの最後には、旧作2つ目、ゲストボーカルのミシェル・オロールクを迎えた「杜若」が収録されている。この作品は、戯曲「杜若」の詩と、詩人のアンナ・アフマートヴァとエミリー・ディキンソンの詩を通して、記憶と憧れを探求したもので、アイルランドと日本それぞれの場所で録音された。